街をかたちづくる法律

第2章

土地を造成するには

開発許可制度。許可がいる開発行為・いらない開発行為、手続の流れ

白かったはずの土地

7月最初の土曜日。エマはヴィクトルと並んで、郊外行きのバスに揺られていた。膝の上には、先週オルゴールのテーブルいっぱいに広げた、あの色分けされた都市計画図のコピーがある。

「ここ、見てください。地図だと色が塗られていない白い場所——市街化調整区域ですよね。なのに、この前バスで通りかかったら、ショベルカーが入って土地を削っていたんです。市街化を『抑制する』区域なのに、どうして堂々と工事ができるんですか?」

バスを降りると、目の前がその現場だった。緑のフェンスで囲まれた広い土地。切り開かれた斜面に真新しい擁壁、碁盤の目のように打たれた区画の杭。入口には大きな白い看板が立っている。

「いい疑問だ。答えの半分はあの看板に書いてある」とヴィクトルは顎で示した。「今日はあれを読みに来た」

「家を建てるだけなら関係ない」?

看板には「開発行為許可標識」と題があり、都市計画法第29条の許可を受けたこと、許可の年月日と番号、開発区域の面積5,200㎡、予定建築物の用途「一戸建て住宅」、工事施行者の名前が並んでいた。

「開発行為の、許可……。開発の許可って、要するに家を建てる許可のことですよね? だったら、整地済みの更地を買って家を一軒建てるだけの人には、開発許可なんて関係ないでしょ?」

「半分合っていて、半分危ない。結論から言う。開発許可は家を建てる許可じゃない土地をいじる許可だ」

「土地を、いじる?」

「都市計画法はこう定義している。開発行為とは、建築物の建築や特定工作物の建設の目的で行う土地の区画形質の変更。区画を割り直す、切土や盛土で土地の形を変える、農地を宅地に変える——建物を建てる『前段階』として土地そのものに手を入れる行為だ。すでに宅地として整った土地に、区画も形も変えずに家を一軒建てるだけなら、開発行為には当たらない。だから君の言うとおり許可は要らないが、理由が違う。『建てるだけだから』ではなく『土地をいじっていないから』だ。建物そのものの関門は別にある。それは次回話す」

エマはノートに書いた。開発許可=土地の許可。建物の許可ではない。

「じゃあこの現場は、斜面を削って区画を割って宅地を造っているから開発行為。だから許可が要る……。あれ、でも変ですよ。たしか市街化区域は1,000㎡以上で許可が必要って読みました。ここは調整区域だから、線引きはもっと緩くて、この広さでもぎりぎり要らないくらいじゃ——」

「逆だ」ヴィクトルが静かに遮った。「そこが今日いちばんのひっかけだ」

数字の線引きと、線のない区域

「開発許可が必要になる規模には、区域ごとに線が引かれている。街の中心に近いほど線は低く、離れるほど高い」ヴィクトルは指を折りながら並べた。市街化区域は1,000㎡以上。区域区分のない非線引きの都市計画区域と準都市計画区域は3,000㎡以上。都市計画区域にも準都市計画区域にも属さない区域では1ha、つまり10,000㎡以上。

「そして市街化調整区域だけは、この表の外にいる。面積を問わず、どんなに小さな開発でも許可が必要だ。市街化を抑制すると決めた区域だから、規模の大小にかかわらず、必ず知事の審査を通す。下限の数字そのものが存在しない」

「小さければ緩い、じゃなくて、そもそも下限がない……。完全に逆に覚えるところでした」

「線を越えていても、許可が要らない例外もある。まず、畜舎や温室のような農林漁業用の建築物と、農林漁業を営む人の住宅を建てるための開発行為。ただしこの例外が使えるのは調整区域・非線引き・準都市計画区域と区域外の話で、市街化区域では使えない。市街化区域で農家が家を建てる目的でも、1,000㎡以上なら許可が要る」

「農家さんでもですか。例外の例外……」

「次に、駅舎などの鉄道施設、図書館、公民館、変電所といった公益上必要な建築物のための開発行為。これは区域も面積も問わず許可不要だ。ただし、公益っぽく聞こえる学校や病院はこのリストに入っていない。それから、都市計画事業や土地区画整理事業、市街地再開発事業などの施行として行う開発行為。事業自体が別の手続で審査されているから二重チェックはしない。最後に、非常災害の応急措置や、通常の管理行為・軽易な行為だ」

「じゃあ、ここは調整区域なのに、なぜ許可が出たんですか? 抑制する区域なんですよね」

「調整区域は面積の線がない代わりに、許可の中身の基準も別建てで厳しい。周辺住民の日常生活に必要な店舗や、地区計画に適合する開発など、限られた類型しか許可されない。ここがどれに当たるかは——開発登録簿を見れば分かる。知事が調製・保管していて、誰でも閲覧できるし、写しの交付も請求できる。私は物件を検討するとき、造成地なら必ず当たる」

看板は手続も語っている

ヴィクトルは看板に戻り、許可年月日の欄を指した。「この日付の前に、長い手続がある。申請者はまず、開発行為に関係する道路や水路など公共施設の管理者と協議して同意を得る。新しく造る公共施設は、将来管理者になる者と協議する。そのうえで申請は必ず書面。知事は遅滞なく許可か不許可を決めて、どちらの場合も文書で通知する。処分に不服があれば開発審査会に審査請求できる」

「口頭でこっそり、が一切ない仕組みなんですね」

「土地の形を変える行為は取り返しがつかないからだ。じゃあ仕上げに三問」ヴィクトルは試験官の顔になった。「一問目。この現場の分譲住宅は、造成工事が終わる前に建て始められるか」

「えっと……造成が終わってないのに建てたら本末転倒だから、ダメ、ですか?」

「正解。工事完了の公告があるまで、開発区域内では原則として建築できない。例外は工事用の仮設建築物などだ。二問目。公告の後なら、予定建築物の『一戸建て住宅』をやめてコンビニを建てられるか」

「看板に用途を書かせておいて後から変えられたら意味がない……原則ダメ!」

「そのとおり。公告後は予定建築物以外は原則建てられない。知事が許可した場合と、その土地に用途地域等が定められている場合は別だがな。三問目。開発業者が工事の途中で倒産して、別の会社がこの土地を買い取ったら、許可は取り直しか?」

「うーん、土地と一緒に許可も付いてくる……?」

「惜しい。土地を買った特定承継人は、知事の承認を受けて地位を承継する。自動では付いてこない。一方、相続や合併の一般承継人は当然に承継する。ここも対で覚えろ。もう一つおまけだ。調整区域では、開発区域の『外』でも勝手には建てられない。建築そのものが知事の許可制だ——農林漁業用や公益建築物は別としてな」

帰りのバス停へ歩きながら、エマは造成地を振り返った。白い地図の上で無秩序に見えた工事が、いまは手続の連なりとして見える。「土地の許可は分かりました。次は建物の関門、でしたよね」「ああ。建築確認だ。試験まであと3か月。夏の間に法令制限を風景ごと覚えてしまおう」

まとめ

確認クイズ

1 / 5

次の開発行為のうち、都市計画法上、開発許可が必要なものはどれ?(条例による強化等は考えない)